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国際人権と裁判員制度
1. 2008年は、人権の年である。
   1948年の世界人権宣言から60年という節目の年というだけでなく、日本が締結している国連自由権規約(B規約)の執行状況について、10年ぶりに審査する年にもあたっている。そして、実際に国連自由権規約(B規約)委員会は、本年10月15日~16日の両日、ジュネーブの国連欧州本部で、対日審査を行い、そして、それをふまえて、同委員会は、10月31日に日本政府に対して「総括所見」を発表したのである。
 対日審査とは何か。規約人権委員会の委員は、学者、弁護士など法律専門家を含む、有識者18人で構成される。それらの委員から、日本政府の代表に対して、質問や意見がなされたわけであり、これが対日審査である。そして、それらの質疑をふまえ、同委員会が最終見解としての「総括所見」を発表したのである。 
 「総括所見」とは、国際人権基準に照らして、日本の、現在の人権状況の水準がどのようなものか、そして、何をなすべきかを、委員会が判断したものであり、平たくいえば、日本の、人権状況に関する、「通信簿」のようなものである。
 ではその「通信簿」の採点はどうであったか。
2. 総括所見の内容は、日本にとって大変厳しいものであった。
   その内容は、34項目にも及ぶものであるが、目を引くのは、刑事手続き関係の分野での指摘である。
 その中から、3点挙げる。
 第一に、委員会は、死刑制度について、「政府は世論に拘わらず死刑廃止を前向きに検討すること」と指摘している。死刑制度について、日本の世論は、常に、死刑制度存置が多数であるが、一方、国際人権の観点からは、国家が、死刑を行うことは非人道的であることを知るべきであろう。死刑制度は、世界的には廃止の流れにあり、我が国に置いても、これを存続することはとうてい許されないであろう。
 第二は、委員会は、代用監獄の廃止を指摘している。これまでの刑事事件における冤罪事件はそのほとんどが、警察代用監獄における過酷な取調により虚偽の「自白」をした事による。本来は、逮捕後の勾留は、法務省の施設(拘置所)に拘束されるのが原則であるが、日本では、その「例外」として、警察留置場での「代用」を認めているのである。これが「代用監獄」と呼ばれるものであり、その結果、24時間警察の下に拘束され、過酷な取調を可能としているのである。
 しかし、「代用監獄」なるものは、諸外国では見られず、国際人権の観点からも、直ちに、廃止されなければならないものである。
 第三に、委員会は、取調の可視化の必要性を指摘した。可視化とは、捜査段階の被疑者に対する取調の全課程を録画することを言う。これまでの被疑者に対する取調は密室で行われていたため、そこでなされた被告人の「自白」なるものが、「任意」になされたものか、それとも取調官の「強要」による違法なものか、ということが裁判になってから争われることが多かった。取調の可視化とは、このような、冤罪を生んだ密室の反省から、取調を、全面的に見えるものにしようとするものである。委員会は、まさしく、密室の取調を批判し、取調の可視化を指摘したのである。
 委員会が指摘したこの3点は、国際人権の視点では、直ちに是正されねばならないものであるが、この指摘は、実は、裁判員制度において大きな意義を持つのである。
3. 裁判員制度とは、2009年5月21日から始まる、市民が裁判官と一緒になって刑事裁判を行う制度である。
 

 裁判員裁判をになう市民は、衆議院議員の選挙権を有する人(20歳以上)の中から、くじで候補者が選ばれ、その後具体的な事件毎に更に候補者が絞られ、最終的には6人の裁判員が選ばれる。この6人の裁判員と裁判官3名の計9名で刑事裁判を行う。
 この裁判員裁判の対象となる事件は殺人、強盗致死傷、傷害致死、現住建造物等放火、身代金目的誘拐など重大事件である。被告人には選択の余地はなく一定の重大事件は全て裁判員裁判対象となる。
 裁判員は裁判官と一緒に、法廷で行われる裁判の審理全てに立ち会い、有罪か無罪かの判断のみならず、量刑まで判断する。この9人の合議体の結論は多数決で決める。
 裁判員を裁判の為に長期間拘束するわけにはいかず、裁判員裁判が始まると平均3日~4日くらいの連日的開廷が予定されている。
 以上の裁判員制度に対して、市民の方の不安や批判の声が聞かされる。
 実は、先の、委員会が指摘した3点は、裁判員制度と無関係ではない。
 まずは、死刑制度である。
 「私は、死刑を宣告できないから、裁判員になりたくない」という方がいる。その感性は、国際的な視点からも正しい。従って、死刑制度は裁判員制度実施前に廃止されるべきであろう。しかし、仮に、裁判員制度実施前に、死刑制度の廃止がなされなくとも、死刑制度自体が問題なのであるから、死刑宣告したくないという感性は、裁判員制度を拒否するのではなくて、むしろ、そのまま、裁判員として意見表明して頂きたい、と思う。
 次に、代用監獄である。冤罪を生む代用監獄は直ちに廃止しなければならない。これまで多くの冤罪を生んだ代用監獄なる装置は直ちに廃止しなければならない。そうでなければ、代用監獄下で、とられた「自白」なるものが、「任意」か「強要」かということが争点とされる。それはこれまでの裁判を見ても分かる。これまでの実際の裁判でも、取調時の状況を巡って延々と警察官などの証人尋問が続くというのが多かった。しかし、長すぎる裁判となれば、市民を、長期間、裁判所に拘束して良いのかという議論は必ず出て来るであろう。
 そこで、取調の可視化である。取調時の「自白」が、「任意」か「強要」かなどは、考えてみれば、全く、不毛な議論であり、もともと、取調を「可視化」しておけば全く不要な議論なのである。ちなみに、取調の可視化を実現している諸外国では、捜査に、何らの不都合は起こっていない。かくて、取調を全面可視化することによって、違法な取調を防ぐとともに、裁判員裁判は迅速に行われるのである。

4. 先に、委員会の指摘は、言わば、日本の人権の「通信簿」と書いた。
 

 我々が、当たり前と思っている、今の状況は、国際的に見れば、必ずしも「当たり前」ではないのである。
 裁判員制度実施前に、委員会の指摘は是非とも実現されねばならないであろう。

 
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