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「9回裏無死1塁でバントはするな 〜野球解説は”ウソ”だらけ」は正しいか?
 表題の新書がこの春に出版されました。刺激的な題名につられて購入しましたが、内容は、統計的比較という点でいささか疑問の多い書物です。そこで以下のような手紙を出版社あてに送りました。
 残念ながら出版社からは、通り一遍の葉書の御礼が来ただけで、私の疑問に対する説明はありませんでした。
 尚、同書の中でも引用されている「マネーボール」(マイケルルイス作・2004年ランダムハウス講談社発行)については、原書も映画(ブラッド・ピット主演)も面白く、素晴らしいものです。
 以下はその手紙です。
 
2011年4月9日
 
鳥 越 規 央 様
大 川  一 夫
 

前略 

 突然のお手紙失礼します。
 さて私は、鳥越様の著作「9回裏無死1塁でバントはするな ー 野球解説は”ウソ”だらけ」(詳伝社新書)を購入させて頂きました一読者です。
 いささか刺激的な題名に惹かれて購入させて頂きました。
 ただ今、半分くらいまで、読ませて頂いているところですが、何カ所かいささか疑問に思いました。
 
 まず表題にもなっています「無死1塁でバントをする」戦術が良いか否かです(20頁)。これを吟味するには、「無死1塁でバントをした場合」と「無死1塁で強攻策に出た場合」を比較しなければなりません。そうでないと「無死1塁でバント」する戦術が良いかどうかは分かりません。
 しかしながら、鳥越様が比較しているのは、「無死1塁の勝利確率」と「1アウト2塁の勝利確率」を比較しています。これは明らかにおかしいです。何故なら、「無死1塁の勝利確率」には、バントして1アウト2塁になった場合も含んでいます(ひょっとすればそれを「除外」しているのかもしれませんが、そういう注釈が無い以上は、通常は「含んでいる」と解されるでしょう)。
 また「無死1塁でバントする」ことは、「1アウト2塁」と同じではありません。バントが成功するとは限りませんし、逆に守備側が「2塁フォースアウトを狙うも失敗」して「無死1,2塁」となることもあるからです。
 要するに「無死」と「1アウト」という、「時点」の違っている者同士を比較していること自体が疑問です。

 次に、先頭打者四死球の問題です(68頁)。これは問題の建て方がおかしいと思います。「四球を出すな」とは楽天星野監督などもよく言われる事ですが、これは「結果としてヒットになってもやむを得ないから、ストライクを取りに行け。四球は出すな」と言うことだと思います。つまりストライクを取りにいけ、と言うところに主眼があって、「四死球より、ヒットのほうが良い」という解説は残念ながら私は聞いたことがありません。そんなことをどなたが仰っているのでしょうか。
 ここでも比較すべきは「ボールがストライクゾーンを外した場合」と「ボールがストライクゾーンに入った場合」でなければならないとを私は思います。

 最後に、「エースにエースをぶつけるのは得策か」の点です(83頁)。
 エースを避けるという発想自体は、格技の「団体戦」などで、通常なら実力ナンバーワンを「大将」に持って行くべきところ、わざと「大将戦」からはずす戦術などとして一般に知られています。従って、うまく組み合わせれば勝率が上がることは感覚的にも分かります。
 鳥越様はここでも確率を使っているのですが、鳥越様の例では、「相手のローテーションは分かっている」という前提です。
 しかし実際には相手のローテーションは分かりません。もしも、エース対決を避けるという戦術が「本当に有効」なら相手のローテーションは益々分かりません。そして裏目に出れば、ひどい結果になります。
 また、格技の団体戦は、一人1試合で必ず一人ずつ5試合(或いは7試合など)を消化しますが、野球の場合は違います。途中で雨天順延などもあります。そうであれば最初に出したピッチャーの登板機会は増えるわけです。
 そうするとエースは最初に持っていた方がよいとなるでしょう。
 鳥越様も最後の部分では、エースの投げ合いに意味があると書いておられますが、これは「存在を内外に示すから」ではなく、確率的にいえるのではないかと私は思います(もっともこれはあくまで推測ですが)。

 以上の通り、まだ本書を半分くらいまでしか読んでいませんが、副題「野球解説は”ウソ”だらけ」というのは、いささかひどいのではないでしょうか。

敬具
 
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