大川法律事務所
画像 サイトマップ 画像 お問い合わせ
 
 
トップページ
トピックス
弁護士等紹介
事務所案内
取扱業務
ご相談窓口
弁護士Q&A
費用について
主な活動
講演記録
コラム
主張
趣味の頁
主張
contents
労働法の抜本的改正を 〜改正につながらない法案には妥協するな
 日本の現在の情勢が、震災復興、TPP、基地問題、景気回復、税・社会保障「改革」など課題が山積していることは論を待たない。そして震災復興をはじめとする将来の日本再生のためにも、雇用創出・雇用安定は不可欠である。この雇用を重視するという総論自体は、政府・厚生労働省も異論はない。しかし問題はその方向性である。 
現在進行中の通常国会において労働者派遣法、労働契約法(有期労働法制)、雇用保険法の「改正」案が論議され、引き続き高年齢者雇用安定法、パート労働法の「改正」も視野におかれているが、いずれもその方向性は大いに問題であるといわざるを得ない。

 ここで改めて非正規労働の問題点を振り返る。非正規労働とは、直接雇用か否か、或いは、労働時間、雇用期間のいずれかが、或いはその幾つかが、正規労働とは違っている雇用形態であり、「非」正規労働といわれる所以である。
 その問題点は、端的に言えば、非正規労働者の雇用の不安定と労働条件の劣悪さである。
 無論、正規労働者も加重労働やハラスメントその他数多くの問題を抱えているが、雇用不安と労働条件の劣悪さは非正規労働者に集中する。失業者層も考慮すると我が国の労働者層は正規、非正規、失業と三極化し、その間の流動性は小さく、その格差が大きい。
 何故にこのような事態となったのか。言うまでもなく、いわゆる規制緩和政策による労働法規の度重なる改悪が原因であり、それにより、非正規労働者は増加し続けた。
 そして、2008年リーマンショック以降の相次ぐ派遣切り、雇い止めなどにより、非正規労働の問題点が浮き彫りにされたとき、本来、正すべきは規制緩和政策の是正であり、非正規労働の抜本的改正であることが明らかになったはずであった。
 2009年の民主党政権の樹立を後押ししたのは、まさしくそれを期待する人たちであり、それゆえ非正規労働法制の改正に多くの人は期待したのである。
 
しかしその後、規制緩和派の巻き返しとともに、東日本大震災後は、派遣業界などを中心に「火事場泥棒」的にこれ幸いと、今こそ「非正規労働」を活用すべきであると声高に叫んでいる。では政府・厚生労働省の方向性はどうか。
 厚生労働省は、2011年6月以降、荒木尚志東大教授ほか「有識者」による「非正規雇用ビジョン懇談会」を立ち上げ、同懇談会は2012年2月27日に「望ましい働き方ビジョン」を発表した。これには、非正規の問題点を的確に指摘するなど共感を覚える箇所もあるが、基本は非正規労働の構造を大きく変えるものではない。
 一方、政府は2011年12月24日に「日本再生の基本戦略」を閣議決定した。その内容は新たな成長戦略を主とし、労働に関しては、非正規の構造を大きくは変えない。
 要するに政府・厚生労働省とも、非正規の基本的枠組みを残しつつ、非正規非労働者の労働条件の向上を図り、非正規から正規への転換を進めるという修正をはかるものである。
 非正規労働は本来きわめて例外的なものでなければならない。従って、あるべき労働法改正は、非正規労働を無くすか限定的なものとするという抜本的改正で無ければならない。
 しかるに、政府・厚生労働省とも言ってみれば小手先の改正しか考えていない。まずはこれらの基本姿勢を批判しなければならない。次に個々の法案に移る。
 
まず労働者派遣法案である。国会において6度にわたる継続審議の末、現在は、民主・自民・公明の修正案が、本原稿執筆時点(3月16日時点)で衆議院を通過している。
 そもそも労働者派遣法はそれ自体が問題である。労働力の提供を受けるものが、直接、使用者としての責任を持つ。中間搾取は許さない。憲法の理念や労働基準法・職業安定法からしても、雇用は本来は直接雇用たるべきなのである。
 そうであれば修正前の民主・社民・国新三党案ですら不十分といえよう。しかしそれでも「少しでも前進」との考えは成り立つ。曲がりにも、派遣法の問題が如実に現れた製造業派遣と登録型派遣を原則禁止としたからである。しかし、民・自・公の三党案は、この製造業派遣禁止、登録型派遣禁止をいずれも削除した。全く、論外といわざるを得ない。
 無論、改正点はある。違法派遣の契約申込義務や日雇派遣規制、専ら派遣規制などである。しかし考えてもみてほしい。そもそも派遣法自体がいわばザル法である。そのザル法すら守れないものを相手にしてどうなるというのか。無意味とは言わないが、実際の実効性を考えたとき「少しでも前進」といえるか疑わしいであろう。
 
次に有期雇用である。これこそ労働者にとって不安定雇用の象徴である。期間が終了すれば雇用は終了する。それを逆手にとって、経営側は有期雇用を反復更新してきた。そして経営者の都合で雇い止めをする。これを許せば有期雇用労働者にとってこれほど不安定なことはない。その不安を救ってきたのは判例法理であった。大雑把に言えば東芝柳町工場事件判決の有期雇用が無期雇用に転化する法理に驚いた経営側は期間毎の契約書をきちんととるようにしたものの、日立メディコ事件判決では反復更新により期待権侵害という法理が登場した。そこで新たに経営側がとった手法が、近畿コカコーラボトリング事件であり、同判決はいわゆる「不更新条項」の有効性を認めた。判決は不当であるが判例による救済の限界を示したともいえる。ならば必要なのは法律をもって救済するしかない。
 そもそも雇用は無期が原則である。労働者を雇うという事業は継続的なものであり、原則として雇用期間を区切る理由はない。そうであれば、有期雇用を認めるのは、期間を区切る必要のあるときに限るべきであって、有期雇用を認める場合を法的に限定する「入り口規制」でなければならない。しかるに現在公表されている法案要綱には「入り口規制」はない。
 法案要綱の売り物は無期雇用への転換義務である。即ち、有期雇用の通算期間の上限を5年とし、通算期間がその5年を超えれば無期雇用への転換を義務付けるという。この5年というあまりの長さも驚きだが、実は離職6か月で通算期間の積み上げをゼロにするというクーリング規定も同時に設けられている。従って、5年に至る前の雇い止めと、クーリングの組み合わせによって、結局、この無期への転換はおそらく骨抜きにされるであろう。

 紙面の都合上、あとは要点だけ述べる。
 パート労働者への厚生年金の拡大は方向性は妥当であるが対象者があまりにも少なすぎる。現行パート労働法の「同一労働同一賃金原則」の対象者があり得ないくらいに限定されていることを想起させるが、パート労働法共々、救済範囲を大胆に拡大すべきであろう。 高年法は向こう12年をかけて65歳雇用義務を実現するというのであるが、「12年」もの時をかけるということに、事態を深刻に考えているのかと言いたい。そもそも高年法は複雑な構成にせずに、端的に65歳定年制を法定すべきであろう。

 改正法案に対して、「少しでも前進」を勝ち取るというのは正しい。わずかでも現状がより良くなるからである。しかし改正の実効性が薄いのに、「改正」されたとの喧伝によって、次の更なる改正につながらないとなれば、却ってマイナスであろう。そうであれば派遣法と有期法制の法案に対しては妥協することなく、反対すべきであろう。


 
線
contents
ページの先頭に戻る
 
Copyright Okawa Law Office