大川法律事務所
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顔認証万引き防止システムの法的問題点
1. 顔認証万引き防止システムとは
   顔認証技術の向上から出来た新たなシステム。顔認証システムに基づく「顔」データの蓄積から予め「要注意人物」を情報としてピックアップしておき、そのピックアップしていた要注意人物が、来店したとき、すぐさま顔認証万引き防止システムが反応して、その要注意人物の来店を知らせるもの。
 リカオンが「顔認証万引き防止システム」として売り出しているが、他社(NEC,オムロンなど)も宣伝の比重が違うだけで、同種の顔認証万引き防止システムは可能である。
 現状で問題になっているのは、いわば、えん罪で要注意人物とされた方の問題である。 つまり、万引きなどしたことがなく、疑われる理由がまったくないにもかかわらず、ある店を訪れると、要注意人物と扱われることである。この不快感、苦痛は耐えがたいものがあるが、弁護士に相談しても①そんなことはありえない、と信じていもらえないか、②仮にそんなことがあってもどうしようもない、と頭から拒絶されることが多い。
 しかし①については、リカオンの宣伝やパチンコ店での利用などが報告され、またいかなるシステムも万能でないことから、顔認証万引き防止システムが間違った「顔」データのもとに運用されていることは十分に考えられる。
 ②そうならば、どうしようもないのだろうか。
 私は、現実に、被害に苦しんでおられる方の立場に立って考えるべきと思っている。
2. 論点として以下の3つが考えられる。
 
(1)
「顔」データの蓄積のために、顔データ情報を取得すること
(2) その顔認証万引き防止システムを利用して、その要注意人物の来店を知らせること
(3) 「要注意人物」情報が誤っているときの是正方法
3. 「顔」データの蓄積のために、顔データ情報を取得すること
 
(1)
 監視カメラと同種の問題。
 肖像権、プライバシー権に抵触する。
 公権力の監視カメラについては、法的規制のないところで、大阪地裁5要件が一応の到達点。(5要件を満たせば道行く人を監視カメラで追いかけることができる)
(2)  以上は公権力との関係で、かつ、公道を映すもの。
 私人には、財産権・営業権があることから、公権力よりも広く、監視カメラは認められるて考えられている。また映される場所も公道でなく、私的エリアであることからもより広く認められるであろう。
(3)  私自身は、私人といえども、法的規制のないままに無批判に監視カメラで顔情報を取得するのは問題と思っているが、現実には監視カメラが日本国中に行きわたり、また多くの方が監視カメラの利用を許容している中で、この監視カメラで顔情報を取得すること自体を問題とするのはなかなかむつかしいであろう。
4. その顔認証万引き防止システムを利用して、その要注意人物の来店を知らせること
 
(1)
 その顔認証万引き防止システムを利用して、店のものに、その要注意人物の来店を知らせる場合に、その方法が問題となる。
 その方法が、来店者にまったく知られることなく、こっそりと伝えられるのであれば問題にできない。それは、顔認証万引き防止システムとは関係なしに、店側が、要注意人物をマークすることはこれまでもあったであろうし、店側の財産権・営業権の保護のためにもやむを得ないと考えられる。
(2)  すると問題は、その店側への知らせ方である。
 例えば、大きな音が鳴るとか、いかにも来店者への注意を向けさせ、来店者自身も要注意人物とされているな、と気づくようなやり方は行き過ぎでないかと問題にしうる。
(3)  参考になるのは、尾行である。
 要注意人物への「尾行」という捜査手法自体は許されている。但し、それはあくまで要注意人物に気づかれないことが前提である。
 逆に以前あった「密着尾行」は、大阪高裁判例で違法とされ、現在では利用されていない。「密着尾行」は本来の尾行の趣旨を離れ、要注意人物に、不快感を与えるものでしかないからである。この尾行の例が示すように、本来要注意人物の来店は、気づかれないように店側に知らせるべきもので、要注意人物に知られるようなあからさまな方法は許されていない、というべきだろう。
(4)

 以上、尾行の例を挙げたが、許される尾行と許されない密着尾行の限界線がむつかしいように、「気づかれない方法」と「あからさまな方法」の限界線は難しい。
 また財産権・営業権があることから、公権力よりも広く、監視カメラは認められているようにこの店側への「知らせ方」も公権力の捜査である尾行よりも、より緩やかに認められるべきという考え方もあろう。

5. 「要注意人物」情報が誤っているときの是正方法
 
(1)
 個人情報保護法には、個人情報取扱事業者は、本人から、保有個人データの内容が事実でないという理由によって当該個人データの内容の訂正、追加又は削除を求められた場合は、利用目的の達成に必要な範囲内において、遅滞なく必要な調査を行い、その結果に基づき、保有個人データ等の訂正を行わなければならない、とされている。
(2)

 しかし本件は、個人情報よりも広いプライバシー情報である。私自身は、その被害の深刻度にかんがみ訂正要求権がプライバシー権の効果として認められるべきと考えているが、本件のような場合に法的に訂正要求権があるかは、所説ある。(類似事案としていわゆる『忘れられる権利』(過去のプライバシー情報の抹消を求める権利)をめぐって幾つか裁判で争われているのが注目される)

6. 具体的にどうすべきか
 
(1)
 いずれにせよ①不快感を与えるような、あからさまな知らせ方であることの立証②要注意人物とした情報が誤っていることの立証は前提となるがなかなか難しい。
(2)  そして店に是正を求める交渉をするか、裁判をするかという選択をすることになる。
  以上
 
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