補遺(2006年9月1日時点) |
「裁判と人権」は、学生・市民向けに書いた本ではありますが、司法の最先端の話題にはふれています。しかし、その為に具体的な事件などで変化のあったケースもあります。
そこで「補遺」を作成しました。
無論、「裁判と人権」で指摘した現在の日本の司法の基本構造や問題点、或いは私自身の考え方は変わりませんので、本書「裁判と人権」自体も改めてお読み頂ければ幸いです。
では、以下で「裁判と人権」の脱稿後、具体的事件について裁判の進行のあったものや、法律が改正されるなど事情が変更したものについて説明します(冒頭の頁数は「裁判と人権」の頁数です)。 |
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(85頁)指紋押捺制度について |
在日コリアンに対する指紋押捺制度は、指紋をとられるものを犯罪者扱いし、品位を傷付け、プライバシーを侵害するものとして、何年にもわたる広範な反対運動のすえ、ようやく撤廃された。
それが、2006年通常国会において、テロ対策の名のもとに何ら議論される事なく、いつの間にか、外国人(定住者等一部例外あり)に対する指紋押捺制度が復活した。 |
(91頁)逮捕の濫用について |
立川事件は、一審判決無罪の後、東京高裁は2005年12月9日に逆転有罪判決を下した。被告人は上告し、現在は、最高裁に係属中である。
大阪で逮捕された2人の労働組合委員長については、いずれも事件を争った為、一人は保釈まで約6ヶ月、もう一人は保釈まで約1年かかっている。
逮捕の濫用という実態は、全く変わっていない。 |
(97頁)監獄法の改正 |
2005年5月18日に監獄法は改正され、「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」が制定され、その後、2006年5月24日には、法務省令として「受刑者処遇規則」が発表されている。 |
(116頁)可視化の必要性 |
日弁連は、捜査における被疑者の取調課程を録音・録画するなどの可視化を求め、法務省はそれに反対してきたが、裁判員制度導入を前に検察庁は、東京地裁などで一部に限って録音・録画を導入することを決めた(2006年5月9日朝日新聞の報道より)。
しかし、これは、捜査過程の一部であり、都合の良い一部分だけを「可視化」することは却って危険であり、日弁連が求めてきた「取調の全課程」の可視化とは似て非なるものである。 |
(128頁)公判前整理等 |
2009年5月までに実施される裁判員制度の導入を前に、先行的に2005年10月より公判前整理・証拠開示・連日的開廷が始まっている。
もちろん全ての事件について導入されているわけではなく、事件の性質等を勘案して裁判所が選択しているものであり、またこれらを選択しても、前述の全てが実施されるのではなく、公判前整理と証拠開示だけを行い、開廷ペースは従来通りという事もある。 |
(158頁)量刑について |
2005年1月より刑法が改正され有期懲役の上限が「15年」から「20年」へ、加重する場合の上限が「20年」から「30年」へと変更された。
その為、旧法時代に原稿を書いた下記の部分を以下の通り訂正する。
158ページ 7行目「十五年」→「二十年」
8行目「二十年」→「三十年」
10行目「二〇年」→「三〇年」
159ページ 1行目「二〇年」→「三〇年」 |
(161頁)名古屋刑務所事件 |
監獄法改正のきっかけとなった事件であるが、受刑者を死なせた当該公務員は、特別公務員暴行陵虐罪の罪で起訴され、2005年11月4日に主犯格の副看守長が懲役3年執行猶予4年の有罪の判決を受けた。 |
(186頁)少年法改正案 |
本稿に書いた改正案は、2005年のいわゆる郵政民営化国会において、解散数の為、廃案となった。しかし、政府は再提出の予定である。 |
(201頁)二党独裁制 |
小選挙区制が民意を反映せず、結局、二党独裁制となることは、本校で書いたとおりであるが、2005年9月11日に行われた第44回総選挙は、見事に民意と議席数の矛盾を明らかにした。小泉首相は、この総選挙を郵政民営化に「賛成」か「反対」かを問う選挙と位置づけたことは周知の通りであるが、「賛成」派の「自民・公明」両党の得票率は、49.2%と半分以下であった(即ち、郵政民営化は指示されなかった)にもかかわらず、「小選挙区制」というまやかしの制度によって、自・公は、75.7%の議席を獲得した。 <私の主張・小選挙区制は二党独裁制である>についてはこちらをクリック |
(224頁)労働審判制度 |
労働分野において鳴り物入りで導入された制度である。
下手をすれば四審制となるという批判のあった制度であるが、裁判所が事前に「労働審判制度にふさわしい事件の申立を」という事を繰り返し研修した為、今のところ何ら問題なくスムーズに推移しているようである。
但し、事前に裁判所からの労働審判事件に相応しい事件のみに絞って申立してほしいという説明が行き届いたせいか、申立件数自体は極めて少ない(全国で2006年4月において、93件、5月85件の計178件である)。 |
(248頁)靖国訴訟 |
いわゆる靖国訴訟は2005年9月30日に大阪高裁が原告敗訴であるものの理由中に、首相の靖国神社参拝は「違憲」との判断を示した。
これで、首相の靖国神社参拝を「違憲」であると裁判所が判断したのは、2例目である。無論、「合憲」の判断はひとつもない。
2006年6月23日には、小泉首相の靖国神社参拝に対する初の最高裁判決が出たが、憲法判断しないままに原告敗訴が確定した。
しかしながら、この最高裁判決では、極めて注目すべき滝井繁男裁判官の補足意見がある。メディアは全く気付いていないが、この補足意見は極めて重要である。 <私の主張・靖国訴訟最高裁判決補足意見について>はこちらをクリック |
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