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「裁判員制度」とは~その留意点
1. 犯罪者はこれまでどう裁かれてきたか
 
(1)  犯罪を起こせば、処罰される。これは、いわば当たり前ともいえる「決まり」である。そして、その実現のために、捜査機関や裁判所など色々な制度が設けられている。
 本来は、犯罪者が処罰され、無辜の者は無罪となる、のが正しい。
 しかし、制度は万全とはいえない。そこで、人類の英知として、最大の人権侵害(無辜の処罰つまり冤罪)を防ぐために、「無罪推定原則」「疑わしきは被告人に有利に」の原則が生まれた。その発想のもとに我が国でも憲法、刑事訴訟法等が定められている。
(2)  犯罪事件が発生して、捜査が始まり、やがて犯人が逮捕されたとのニュースが新聞などで報ぜられると、人々の関心がそこで終わることが多い。
 しかし、実際は、そのあと裁判所の関与の下に刑事手続きが進行し、刑事裁判が始まるのであり、そして、その裁判で、有罪となってこそ、その「犯人」は処罰される。
3)  現在の刑事続きはおおむね以下のように進む。
①被疑者の逮捕(最大72時間) 
②被疑者の勾留(最大20日間)
③検察官の起訴(起訴状一本主義)
④公判手続【注1】冒頭手続・証拠調【注2】・検察官の論告・求刑、弁護人の弁論
⑤判決
  【注1】裁判員制度が始まると、この公判手続きの前に「公判前整理手続」(簡 単に言えば、公判で提出される証拠を、予め整理すること)が、裁判官・検 察官・弁護人の間で行われる。
【注2】刑事訴訟法上、証拠調べの原則として重要なのは、自白法則と伝聞法 則である。前者は、「自白」を証拠とするには、その自白が「任意」にされ たことに「疑い」のないことと、「補強証拠」(自白以外の別の証拠のこと) のあることである。過去の冤罪事件は、警察の違法な取調に屈し「虚偽の自白」を行ったとして、裁判になってその「自白の任意性」が争われることが 多かった。後者は、伝聞証拠(また聞きの証言や、紙に書かれた調書などの 証拠)は原則として証拠とならない、というものであるが、実際は例外があ る(検察官が取った調書などは一定の要件のもとに「調書」が証拠とされる)。
(4)  これまでの裁判は専門の裁判官(司法試験に合格し、司法修習を受け、その卒業試験に合格し、裁判官として採用されたもの)のみによって、裁判が行われてきた。今回新しく設けられた裁判員制度は、この裁判を、市民が関与する(前記(3)④のところ)というものである。
2. これまでの刑事裁判の問題点
   突き詰めれば、理想として無辜の者は早期に無罪として釈放すべしところ、実際は、「長期拘束」かつ「長期裁判」かつ「冤罪」ということが生じた。
 具体的には以下の点である。
 
(1)  冤罪を生む取調段階での「自白強要装置」(「代用監獄」制度、被疑者段階での国選弁護人制度がなかったこと、取調の密室性など)
 ※かくて、これまでの刑事裁判では、延々と「取調段階での自白の任意性」 を巡って証拠調べ(証人調べ)が行われる。
 日弁連が求めてきた「取調の可視化」(取調の全課程を録画・録音などで証拠として残しておくこと)が実現すれば、こういう不毛な争点は生じない。
(2)  いわゆる「人質司法」。釈放されたかったら「自白」せよ、とでも言うべき「保釈」などの身体拘束に関する厳しい運用を指す)
 ※「無罪推定原則」からすればこのような運用は明らかにおかしい。
 裁判員制度導入直前の現状において、「保釈実務」の厳しい運用がやや緩 和されてきた。
(3)  「調書裁判」(法廷での証言よりも、捜査段階で作られた「調書」を証拠とした上、その「調書」に重きを置く運用を指す)
 ※法廷に出てきた証人を、反対尋問で突き崩す。普通はそれで弁護側の反証が成功したと思われるであろう。しかし、現実はそうでない。その不当な現状を識者は「調書裁判」と呼ぶ。
 法廷での証言は無視して、捜査段階での「調書」が証拠とされるとなれば、裁かれるものにとっては、とうてい納得はいくまい。
3. なぜ裁判員制度が必要とされたか
 
(1) 司法改革の一環
 
ア、 裁判一般について①裁判自体が市民にとって敷居が高くて利用されず
②裁判自体が長く掛かり
③その結果が必ずしも妥当性がない(結果が市民の感覚に合わない)という問題点があった。
イ、 その中での、刑事司法の改革(裁判所、法務省、日弁連の思惑があるため、前記2項の問題点の全てが「改革」されたわけではない)
(2)  市民参与の必要性
 官僚裁判官が裁判することの弊害(刑事事件について言えば、毎日、毎日、「有罪」の判決を出している。書証重視。市民感覚との遊離など)
 先進国では、市民の参与が普通(司法の民主制)。
(3)  法律上は「司法に対する国民の理解の増進とその信用の向上に資する」 とする、のが制度の目的とされ、建前上は、国民にとって理解しにくかった 裁判を理解しやすいものとするのが目的とされているが、最近では、裁判官 自身が、市民の方の感覚を取り入れるためと説明している。
4. 裁判員制度の内容
 
(1) 裁判員制度とは
 
地方裁判所の刑事裁判に市民が参加
原則として、裁判官3名と市民6名の計9名で構成
その9名が一緒になって、公判開始後の(従来、専門裁判官のみが行ってきた)刑事裁判の一連の審理に臨み、9名で評議を行い、判決を下す制度(2009年5月21日から実施される)。
(2) 扱う事件
 
一定の重大事件
(3) 裁判員事件対象事件
 
想定では、通常事件の約4.1パーセント
※従って、従来の、職業裁判官だけの裁判も行われる。
(4) 裁判員選任手続き
 
想定では、通常事件の約4.1パーセント
※従って、従来の、職業裁判官だけの裁判も行われる。
(5) 裁判員事件対象事件
 
①裁判員候補対象者は衆議院選挙の有権者
②その中から向こう一年間の裁判員候補者を無作為選出する
③具体的事件が始まる前に②から更に無作為選出され50人選出
 被選出者に裁判所から呼出状送付(不出頭は10万円の科料)
④裁判所に呼ばれた候補者に質問される(欠格事由などのチェック)
⑤その後、くじで実際に裁判を担当する6名を選出する。
⑥裁判員の役割。
 前記の通り、公判開始後の刑事裁判の一連の手続きに臨む
(6) 評議
 
9人 同等に議論。結論が一致しなければ多数決。但し「裁判員、裁判官のそれぞれが一人以上賛成していることが必要」
(7) 平均審理期間
 
一日5~6時間で、平均3日くらいといわれている。
(裁判員は、裁判が終わると、自宅に帰れるし、自宅に帰って普通に新聞、テレビなどで扱っている事件のニュースに接してもよい。但し、裁判の判断の基礎となるのは、法廷での証拠にのみ)
5. 裁判員になったときのリスク
 
(1) 義務について
 
前記欠格事由等にあたらない限り拒めない
(2) 社会生活から中断されるリスク
 
裁判員となる以上、やむを得ない
(3) 裁判員になった事による会社などからの不利益
 
不利益を受けない。
不利益に扱えば違法である。
(4) 裁判員に対する事件関係者からの攻撃
 
裁判員の名前などは伏せられ、攻撃は受けないようになっている。
(5) 守秘義務について
 
公開の法廷での出来事以外は、生涯、守秘義務を負う。
※リスクはあるが、一定の公的義務を果たし、司法の民主化に寄与する役割 上不可欠の負担である。
6. 裁判員となったときの心構え
  分からないことがあったら、遠慮無く「わかりません」と言おう
 
(1) 市民参加、司法の民主制の意義
 
①市民の感覚を裁判に反映させる(法の文言も、市民に理解しやすくする)。
 市民の感覚で、結果もプロセスも、理解できるもので無ければならない。
②法律的知識は必要はない(普通の市民は知らない。裁判官が説明する)。
③「人の運命を左右するような事は出来ない」と思わないこと
 (難しいことが期待されているわけではない)
(2) もしも裁判員に選ばれたら、自分の思うままに取り組もう
 
「最高裁判所・法務省・日本弁護士連合会」作成の「裁判員制度」のパンフレットのうたい文句は「私の視点、私の感覚、私の言葉で参加します」  
よくわからなかったら「無罪」と言おう。
何故なら「疑わしきは被告人の利益に」。
量刑もよくわからなかったら「軽い方」にしよう。
何故なら「疑わしきは被告人の利益に」。
(3) わからなくても気にしない。
 
意見を変えるのも自由。
(4) 裁判員に選ばれたらどうしようと、悩めるあなたこそ是非裁判員に。
 
悩めるあなたのその感性をぶつけよう。
   
  (配付資料)
「裁判員制度」(最高裁判所・法務省・日本弁護士連合会)
「裁判員になりました・パート1」(日本弁護士連合会)
「裁判員になりました・パート2」(日本弁護士連合会)
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