大川法律事務所
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裁判員制度について
第一. はじめに
   裁判員制度は、これまでの刑事裁判と違って、市民が刑事裁判に参加するという制度。欧米先進国では、裁判の市民参加は、司法の民主主義という観点から広く受けいられている。
 日本では戦後、司法への市民参加が無かっただけに、裁判員制度導入への市民の抵抗が大きいが、この制度導入については、従来の刑事司法の評価、司法改革の流れ、そして人権擁護の観点から理解する必要がある。
第二. 従前の刑事司法
   
 
1, 憲法・刑事訴訟法の理念

人類の英知として最大の人権侵害(無辜の処罰つまり冤罪)を防ぐ事が重要
 
(1) 「無罪推定原則」
 犯人逮捕は事件解決でない。裁判で有罪となってこそ、処罰される。
(2) 「疑わしきは被告人の利益に」の原則の理念
 有罪の立証責任は、検察官にある。   
(3) 理念としての当事者主義(判断者は、判断する役割に徹する)
2, 現実の運用
 
(1) 刑事手続きの流れ
 ①被疑者の逮捕(最大72時間)
 ②被疑者の勾留(原則最大20日間)
 ③検察官の起訴(起訴状一本主義)
 ④公判手続【注1】
   冒頭手続・証拠調【注2】・検察官の論告・求刑、弁護人の弁論
 ⑤判決(判決に不服有れば控訴、そして上告。→3審制)
 【注1】裁判員制度では公判手続きの前に「公判前整理手続」が、
   裁判官・検察官・弁護人の間で行われる。
 【注2】刑事訴訟法上、証拠調べの原則として重要なのは、
   自白法則(任意性のない「自白」は証拠とならない、など)
   伝聞法則 (反対尋問出来ない「また聞き」は証拠とならない)
    ※いずれも冤罪を防ぐための証拠法則
(2) これまでの刑事裁判の問題点
理念から離れた現実
1)99・9%有罪の官僚司法
   手続が定型的に進む
2)「長期拘束」かつ「長期裁判」
   かつ「冤罪」の危険
3)冤罪を生む装置
  ①冤罪を生む取調段階での「自白強要装置」
   ァ、「代用監獄」制度
     被疑者の拘束を、本来の拘置所では行うのではなくて、
     警察の留置場を持って「代用」する制度
   イ、被疑者段階での国選弁護人制度がなかったこと
      2009年5月からは本格実施。
   ウ、取調の密室性など。    
  ②いわゆる「人質司法」
    釈放されたかったら「自白」せよ、とでも言うべき「保釈」などの
    身体拘束に関する厳しい運用。    
  ③「調書裁判」
    法廷での証言よりも、捜査段階で作られた「調書」を証拠とした上、
    その「調書」に重きを置く運用を指す。 
(3) 現実に生じた数々の冤罪事件(足利事件、氷見事件その他)
【人は何故「虚偽自白」するのか】
 冤罪を生む装置の中で、
  ①絶望感
  ②目の前の苦痛から逃れようとする
  ③一旦「虚偽自白」すると演じてしまう方が「楽」になる
  ④ 無実である故に刑罰を受けることは「現実感」を持たない。
 (参考)浜田寿美男教授の分析など
3, 改革は何よりも、人権擁護の観点から「冤罪を防ぐ」ための改革でなければならなかった。
第三. 裁判員制度の成立
 
1, なぜ裁判員制度が必要とされたか
 
(1) 司法改革の一環
ア、裁判一般について
  ①裁判自体が市民にとって敷居が高くて利用されず
  ②裁判自体が長く掛かり
  ③その結果が必ずしも妥当性がない(結果が市民の感覚に合わない)という問題点があった。
イ、その中での、刑事司法の改革
 (裁判所、法務省、日弁連の思惑があるため、前記2項の問題点の全てが
 「改革」されたわけではない)
(2) 市民参与の必要性
 官僚裁判官が裁判することの弊害(刑事事件について言えば、
 毎日、毎日、「有罪」の判決を出している。書証重視。市民感覚との遊離など)
 先進国では、市民の参与が普通(司法の民主制)。
(3) 法律上は「司法に対する国民の理解の増進とその信用の向上に資する」とする、のが制度の目的とされ、建前上は、国民にとって理解しにくかった 裁判を理解しやすいものとするのが目的とされている。
2, 裁判員制度の内容
 
1)

裁判員制度とは
(1)地方裁判所の刑事裁判に市民が参加
  原則として、裁判官3名と市民6名の計9名で構成
  その9名が一緒になって、公判開始後の(従来、専門裁判官のみが行ってきた)
  刑事裁判の一連の審理に臨み、9名で評議を行い、判決を下す制度
(2)扱う事件  一定の重大事件
(3)裁判員事件対象事件(被告人に選択権はない)
    想定では、通常事件の約4パーセント
    ※従って、従来の、職業裁判官だけの裁判も行われる。
(4)裁判員選任手続き  
  ①裁判員候補対象者は衆議院選挙の有権者
  ②その中から一年間の裁判員候補者を、前年秋に、無作為選出する
    ※この段階での欠格者等は裁判所へその旨回答する。
  ③具体的事件が始まる前に②から更に無作為選出され50~100人選出
    被選出者に裁判所から呼出状送付(不出頭は10万円の科料)
  ④裁判所に呼ばれた候補者に質問される(欠格事由などのチェック)
  ⑤その後くじで実際に裁判を担当する6名(+補充裁判員)を選出する。
  ⑥裁判員の役割。
    前記の通り、公判開始後の刑事裁判の一連の手続きに臨む
(5)裁判員の資格  
  ①欠格事由
  ②事件に関する不適格事由
  ③就職禁止事由
  ④その他不適格事由
(6)評議
   9人同等に議論。結論が一致しなければ多数決。
   但し「裁判員、裁判官のそれぞれが一人以上賛成していることが必要」(7)平均審理期間
   一日5~6時間で、平均3日くらいといわれている。
   (裁判員は、裁判が終わると、自宅に帰れるし、自宅に帰って普通に新聞、テレビなどで
   扱っている事件のニュースに接してもよい。
   但し、裁判の判断の基礎となるのは、法廷での証拠にのみ)

2) よくある質問
 
(1) どうしても参加しなければならないのでしょうか?
前記欠格事由等にあたらない限り拒めません。
(2) 仕事が忙しくて休めないのだがそれでも拒めないのでしょうか?
単に忙しいだけでは拒めず、余人をもって代え難い仕事をしていれば拒めることになってます。
(3) 裁判員になった事により、会社などから不利益を受けないでしょうか?
不利益に扱ってはいけません。会社が不利益に扱えば違法です。
(4) 裁判員に対する事件関係者からの攻撃を受けないでしょうか?
裁判員の名前などは伏せられ、攻撃は受けないようになっています。
それでも危険性がありそうな暴力団のような場合だと、裁判所の判断で、裁判員裁判でなく、職業裁判官のみで行われます。
(5) 知識もない素人が人を裁いていいのでしょうか?
義務教育を受けていない事という最低限の教養は必要ですが、それ以上の知識は必要ありません。9人で合議する上、市民に期待されているのは日常の市民感覚だからです。
(6) 法律用語が分からないがそれでも良いのでしょうか?
法律知識、法律用語の理解は不要です。法廷での言葉は分かりやすく話され、難しい法律用語などが出てきたときは裁判官が説明します。
そもそも市民は専門家でないのですから法律に詳しくないという前提で裁判員裁判は成り立っています。
(7) 評議で自分の判断と違う結論となったときに責任が持てませんが?
評議に加わり、真摯に議論したことが、責任を果たした事になります。結論が自分の判断と違う事になるのは「多数決」による以上やむを得ません。
(8) 守秘義務を守り続ける自信がありませんが?
それでも法律上は守って頂かねばなりません。
しかし私自身は、その不安はもっともだと思っています。
そこで、そのような声を多数、発することが重要だと思います。
(9) 感情が先行して冤罪が増えないでしょうか。
    裁判員裁判の実施を前に各地で行ってきた模擬裁判を見れば、むしろ、市民の方が慎重な事実認定をしていると思います。そもそも、99・9%有罪だったのですから、これ以上有罪が増えるとは思えません。
    むしろ、有罪認定の後の量刑のおいて、重罰化するのではないかと心配です。
(10) 裁判員になってその結果何らかの被害を受けたらどうなるのでしょうか?
公務災害として補償されます。またメンタルケアもなされることになってます。
第四. 裁判員制度の問題点
 
1, 重罰化の危険
  市民が過去の「量刑相場」にとらわれないことによって、量刑が大きくぶれる可能性がある。
このことは一方で「重罰化」の危険が生ずる(市民にとっては、初めて目の当たりにする多くの事件が衝撃的である)。
2, 評議の儀式化の危険
  密室の評議における裁判官の適切な訴訟指揮の担保がない。
裁判官が評議を誘導すれば市民参加の意義が無く、評議は単に儀式化する。
3, 裁判員の過大な負担
  市民の裁判への参加という通常の負担自体は、司法の民主化に寄与する役割上、不可欠の負担である。
しかし、それ以上に、制度上の大きな負担がある。
  (1)市民に量刑の判断は難しい。
  ①市民は、事実認定は日々普通にしているが、量刑は違う。
   法律(刑法)に照らして量刑を決めるのは言わば法律の「解釈」ゆえプロの領域。 
  ②また無実の確信を持った裁判員が多数決で敗れたあと、量刑において、
   無実だと思っているものについて、量刑を考えさせること自体が酷。
(2)市民に対する過度の守秘義務は過大な負担。
3, 弁護人の負担
  複数選任、公判前整理、集中審理
検察官は全て複数で臨む。
ならば国選弁護人も全て複数たるべきである。
第五. 裁判員裁判の現実
 
1, 第一号事件は8/3東京地裁に始まる
(最初は争点が少ないもの。難事件はかなり先)
2, 裁判員裁判対象事件の件数は、大阪が多い
3, これまでの印象
  ①起訴は慎重になっている
 5/21前の駆け込み起訴。
 認定落ち、起訴猶予 ②裁判員に質問・尋問を求めるマスコミの論調
 当事者主義の理念からすれば、判断者は、じっと聞いているので良い。 
③ほぼ審理計画通りに進行している。
 評議は十分に納得いくように行われているのだろうか。
  例)台風で早めたケースあり。
④量刑はどうか。
 従来の感覚(量刑相場)よりも、重く、また軽くと、大きくぶれている印象を受ける。
  しかし、やはり「8掛け」だった(日経新聞)
⑤最初は消極的、しかし実際に裁判員を経験すると「良かった」というのが多数になる。
 最高裁アンケートなど。
 裁判員裁判積極説へ誘導ではないのか。
⑥裁判員の不満の声が大きく出てこない。
 守秘義務の関係など。
 「抽象的に」不満の声。
 記者会見ボイコットなどはある。
第六. 裁判員裁判にどのように取り組むべきか
 
1, 運用上徹底されるべきこと
  1)「疑わしきは被告人の利益に」の徹底
  あいつは「疑わしい」「怪しい」、だから真犯人だ、とならないように。
2)可視化の実現
  自白の任意性の立証は負担。裁判員裁判の実施には取調の可視化が不可欠。
3)評議における裁判員の自由な発言の保障
  市民は毅然と「ノー」と言おう。自由な発言の保障は裁判官の役割。
4)弁護人の負担の軽減
5)マスコミが、刑事裁判原則に沿った報道をすること
2, 3年後見直しへ向けて
市民、弁護士、学者の発言、とりわけ裁判員経験者の発言の重要性
3, あなたが裁判員になったとき
  (1)まず市民参加の意義を知ろう
  ①市民の感覚を裁判に反映させる(法の文言も、市民に理解しやすくする)。
   市民の感覚で、結果もプロセスも、理解できるもので無ければならない。
  ②法律的知識は必要はない(普通の市民は知らない。裁判官が説明する)。
  ③「人の運命を左右するような事は出来ない」と思わないこと
  (難しいことが期待されているわけではない)
(2)刑事裁判の原則を知ろう(前述の通り)
(3)そして、自分の思うままに取り組もう
  ①「最高裁判所・法務省・日本弁護士連合会」作成の「裁判員制度」のパンフレットのうたい文句は
   「私の視点、私の感覚、私の言葉で参加します」 
  ②よくわからなかったら「無罪」と言おう。
   何故なら「疑わしきは被告人の利益に」。
   量刑もよくわからなかったら「軽い方」にしよう。
   何故なら「疑わしきは被告人の利益に」。
  ③わからなくても気にしない。
   意見を変えるのも自由。
4, 裁判員に選ばれたらどうしようと、悩めるあなたこそ是非裁判員に。
悩めるあなたのその感性をぶつけよう。
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