大川法律事務所
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労働法の初歩~労働相談を受ける際の注意点
第1 労働を巡る現状
 
1. 日本的雇用システム(終身制、年功制→定年制、企業別組合→紛争解決処理)の崩壊
  背景としての環境変化
  高度成長の終焉、経済のサービス化・情報化の進行
  グローバリゼーション(ルールと競争)の進行
  権利意識の拡大
   →労働基本権を人格権に依拠する方向へ。
    (しかし、2008年のリーマンショック以降再び生存権がクロースアップ)
2. 昨今の状況
  (1)総中流社会から格差社会へ
   規制緩和政策からワーキングプアの登場。小泉改革で拡大。
(2)①非正規労働者には解雇・切り捨て
   ②正規労働者には労働条件切り下げ・加重労働・メンタルヘルス問題など
  極めて深刻な問題
(3)その結果、労働事件の増大(労働者数約5500万人)
   行政に対する相談の増大(想定される紛争件数は数十万件)
     しかし裁判は少ない・弁護士への相談も少なかった。
       →相談担当者の増加、社労士・司法書士の関与の増加
第2 労働法の基本
 
1. 労働関係は何が規律するのか
  (1)法律    憲法・(民法→)労働法   
(2)労働契約  労働契約法の誕生
(3)就業規則
(4)労働協約
     判例・慣習など
2. そもそもの労働法原理
  (1)市民法原理の修正  労働の特殊性(従属性・自律性)
     民法から労働法(労働法という法律はない)へ
(2)労働者保護と集団法理
     労働基準法、労働組合法、そして労働契約法
(3)規制緩和の流れ(→その反省)
3. 労働事件の分野の特徴
  (1)労使自治の領域が多い
(2)法的概念の曖昧性
    通達・判例法理を知る必要がある
(3)法改正が多い
    特別法にも注意
(4)理想と実態の乖離
    コンプライアンスと行政指導
第3 相談に当たって
 
1. 司法書士の職域について
  (1)認定司法書士
    140万円以下の相談と代理
(2)合理的な理由がなく、一部請求をするのは脱法で有り、許されない。
    相談の途中であって140万円を超える事件と分かれば直ちに中断して弁護士に引き継ぐべし。
(3)反すれば、弁護士法72条違反になりうる。懲戒処分もあり得る。
2. 事情聴取に当たって
  (1)労働側か使用者側か
(2)「事実」の把握に務める
(3)相談者単独で聞くか、付き添い者と聞くか
(4)法律用語と相談者の用語
(5)背景も知る
3. 証拠の把握
  (1)証拠がないと勝てない
(2)「ケースセオリー」は何か
4. 依頼者の真の要望を知る
  (1)紛争のどの段階か
(2)決着の付け方は何か
(3)依頼者の「納得」とは。cf ハーバード交渉術
5. 証拠収集とアドバイス
  (1)公平・公正に
(2)本来の義務はきちんと果たすこと
第4 主な相談事例
 
1. 雇用の成立 ー 労働条件を確認しよう
 

1)採用の自由の制限について
  ①三菱樹脂事件に見られるが如く判例は、広く、採用の自由を認める(学説は批判)。
  ②法律上の制限
    均等法5条 性差別の禁止
    雇用対策法10条 年齢差別の禁止
2)労働条件明示義務
(1)明示義務の内容
  ①労基法 労働契約の期間、就業場所・従事すべき業務、労働時間・休日・休暇
    賃金、解雇事由を含む退職、(ここまでは書面交付が必要)
    退職金、賞与等、労働者に負担させる食費等、安全衛生、職業訓練、災害補償
    表彰・制裁、休職に関する事項
  ②パート労働法
    ①に加えて、昇級、退職手当、賞与のそれぞれの有無の書面交付義務
(2)明示の時期  契約締結時(内定の時は内定時。少なくとも中核的条件は明示されるべき)
(3)明示義務違反の効果
    罰則の適用(労基法120条)
    明示のない部分は、労使の合理的意思の推認ないし就業規則による
    労働者に過大な期待を抱かせる表示には不法行為になる可能性がある

2. 労働者性 ー 労働者であるか否かで大きな違い(近時の重要問題)
 

1)労働者性・使用者性を論ずる意義はどこにあるか

(1)労働者でないと保護されない
     労災補償・解雇規制・その他労働法の適用を受けるか否か
(2)使用者でないと責任を問われない

2)労働者概念

(1)労基法上の労働者(事業または事務所に使用される者で賃金を支払われる者)
   判断要素として一般に言われるもの(近時、議論有り)
       ①諾否の自由
       ②指揮監督
       ③場所・時間拘束性
       ④労務提供の代替性
       ⑤報酬の労働対償性
       ⑥事業者性
       ⑦専属性
(2)労働契約法上の労働者((1)と同じである必要は無い) 
(3)労働組合法上の労働者((1)よりも広い・通説)
3)問題となる類型
    委託就業型・専門職型・研修型・会社役員型など

3. 賃金について ー その原則を知ろう
 

1)不就労と賃金
 (1)労働者の責めに帰すべき事由による不就労→ノーワークノーペイ
 (2)不可抗力による不就労→ノーワークノーペイ。
    但し、労働時間と対応しない手当などは、労働協約、就業規則、慣行などによる (3)使用者の責めに帰すべき事由による不就労→賃金請求権は失わない。

  ※あくまで基本的な原則。ストライキのときなど難しい問題はある。
  
2)賃金支払い方法の原則

①通過払い原則(例外は、法令・労働協約のある時)
  現物支給はだめ
②直接払い原則
  ピンハネ禁止なので、配偶者・子など「使者」と見うる場合は可。
③全額払い原則
  ノーワークの賃金カットやチェックオフ(本人同意と協定は必要)は許される
④毎月一回以上、一定期日払いの原則

4. 労働時間 ー 人らしく働くために原則を知ろう
 

1,労働時間の法的規制

  1)法的規制の必要性と目的
   (1)法的規制の必要性
   (2)法的規制の目的
     a 労働者の健康保護
     b 家族的・社会的・文化的生活の保護(ワークライフバランス)
     c 雇用の創出(ワークシェアリング)
2,労働時間規制の基本構造
  1)労働時間枠の設定
   (1)意義   自主的時間決定への規制
   (2)原則的時間枠   週40時間・一日8時間
   (3)例外  → 後述5へ
3,労働時間の「総量規制」
  1)変形労働時間制
   (1)意義
   (2)1ヶ月単位の変形労働時間制
   (3)1年単位の変形労働時間制
  2)フレックスタイム制
4,時間外・休日労働
  1)意義  原則として許されない。
  2)非常時の時間外・休日労働
  3)公務のための時間外・休日労働
  4)労使協定(三六協定)に基づく時間外・休日労働
  5)所定外労働の義務
5,みなし労働時間
  1)事業場外労働のみなし労働時間
  2)裁量労働制のみなし労働時間

  ※詳細は、別講義。

5. 残業割増賃金 ー 残業手当はきっちりと請求しよう
 

1)労働時間規制は前述の通り

2)労基法は、労働時間、休憩、休日規制の適用除外を定める(41条)。
   農業・水産業に従事する者
   管理監督者・機密事務取扱者
   監視・断続的労働従事者
3)問題になるのは「管理監督者」
 趣旨は職務の性質上、規制になじまず、自由裁量があり、保護に欠けることはないから。
 その該当性は実質的判断  ①職務内容、権限、責任、経営事項への関与
              ②出退社の自由
              ③役職手当など地位にふさわしい処遇
4)「名ばかり管理職」問題
 管理職の働き過ぎとただ働き残業☆日本マクドナルド店長事件(東京地裁2008年1月28日判決)(職務内容、権限、責任、待遇から管理監督者に当たらない、とした。最大連続60日間勤務や月100時間以上労働の月のあることが認定されている)
5)残業手当を支払わない使用者に対しては、証拠をきっちりと残しておこう
  ※使用者の言い分で多いのは
   ①仕事を命じていないのに、定時を過ぎても勝手に残っている
   ②実際には働いていない
   ③「管理職」である
  これらを、打ち破る、証拠を残しておくのが重要である。

6. 労働条件の不利益変更 ー 一方的な賃金切り下げは許されない
 

1)使用者の都合で賃金の切り下げや、その他労働者にとっての不利益な労働条件の変更が出来るのか
 就業規則(賃金規定)の変更による賃金切り下げについて
  原則は労働者の同意無くして出来ない
合理性あれば、就業規則による労働条件の不利益変更が認められる。

2)合理性の判断基準
  問題は、何をして「合理性」の有無を認めるかというその判断基準である。
  a、判例法理 紆余曲折はあったが、以下の総合考慮とされるに至った
     ①労働者の被る不利益
     ②使用者側の変更の必要性
     ③変更後の内容の相当性
     ④代償措置
     ⑤労働組合などとの交渉経緯
     ⑥他の労組・従業員などの対応
     ⑦社会の一般的状況
  b、労働契約法
     文言は簡略化されたが、立法経過に鑑みても、判例法理と同じとされている。

7. 解雇について ー 勝手な首切りは許されない
 

1)労働基準法上の制約

2)労働契約法上の制約

  ※詳細は、別講義。

8. その他の主な紛争 ー 今日の労働事件を知る
  今日、多くある紛争は
(1)非正規労働
    有期雇用
    パート労働
    派遣労働
      を巡る問題
(2)パワハラ・セクハラ
(3)労災
    特に、過労死・過労自殺
9. 労働組合の役割 ー 労働組合を通じて労働者の権利の実現へ
 

1)労働組合の重要性
 (1)歴史的意義 労働者は団結により対等に交渉が出来る
 (2)具体例 ー 労働組合が機能すれば成果を得られる例
   ①残業代請求(一人で請求するのは困難)
   ②賃上げ(団結してこそ)
   ③リストラ(整理解雇の要件における組合の位置づけ)、など。 

2)労働組合の持っている力(憲法上認められた権利)
 (1)積極的団結権
    団結承認義務(使用者に一定範囲で受任する義務など)
 (2)消極的団結自由の問題

3)団結権・団交権・団体交渉権

  ※6,7,9については、認定司法書士が相談を受けるときには、職域の関係で注意。

第5 労働法の学ぶ際の主な参考文献
 

①日本労働弁護団「労働相談マニュアル」

②大阪労働者弁護団「活用しよう、労働契約法」「活用しよう、改正労基法」

③労働判例百選(別冊ジュリスト)

④菅野和夫「労働法」(弘文堂)

⑤荒木尚志「労働法」(有斐閣)

⑥西谷敏「労働法」(日本評論社)

⑥厚生労働省ホームページ

第6 労働紛争解決機関
 
1. 行政機関
  (1)労働基準監督署
(2)都道府県労働局
(3)労働委員会
(4)自治体相談センター
2. 裁判所
  (1)調停
(2)労働審判
(3)仮処分
(4)通常訴訟
(5)少額訴訟
3. 民間ADR
  ※費用、迅速性、実効性などで選択する
7. 労働紛争は解決しているか~専門家はいかに関わるか
 
1. 事後的救済は
  労働者の権利は。「法の支配」機能は貫徹しているのか。
 (1)ルーズな法社会・お上(公法)中心、私法不在
      権利観念の不在(義理人情・抽象性・個人価値の未確定)
 (2)解決の実効性・時間・費用その他
 (3)争わない国民性・日本的雇用システムにおける解決策
2. 事前救済は 立法運動、労働組合の役割等の重要性
3. 専門家はいかに関わるべきか
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