(1)被疑者の取調べは「密室」
捜査段階における被疑者の取調べは、弁護士の立会いを排除し、外部からの連絡を遮断されたいわゆる「密室」。捜査官が供述者を威圧したり、利益誘導したりといった違法・不当な取調べが行われることがある。その結果、供述者が意に反する供述を強いられたり、供述と食い違う調書が作成され、その精神や健康を害される。
(2)「裁判の長期化」や「冤罪」の原因
公判において、供述者が「脅されて調書に署名させられた」、「言ってもいないことを調書に書かれた」と主張しても、取調べ状況を客観的に証明する手段に乏しい。弁護人・検察官双方の主張が不毛な水掛け論。裁判の長期化や冤罪の深刻な原因となる。
(3)取調べの全過程の録画(可視化)
取調室の中で何が行われたのかについて、はっきりした分かりやすい証拠。取調べの最初から最後まで (取調べの全過程) を録画(可視化)しておけばよい。録画したものを再生すれば容易に適正な判定を下すことができる。
(4)裁判員制度成功のためにも取調べの可視化が必要
取調べの可視化(取調べの全過程の録画)なく、裁判員となった多くの市民が、これまでと同様の不毛な水掛け論に延々と付き合うことは不可能。取調べの全過程の録画により、取調べの様子を事後に検証することが容易になり、裁判員も判断しやすくなる。
(5)欧米諸国、韓国、香港、台湾などでも導入
イギリスやアメリカのかなりの州のほか、オーストラリア、韓国、香港、台湾などでも、取調べの録画や録音を義務付ける。
(6)国連の国際人権(自由権)規約委員会
日本における被疑者取調べ制度の問題点を特に指摘し、被疑者への取調べが厳格に監視され、電気的手段により記録されるよう勧告。
(7)検察庁や警察庁での一部録画の試行について
①検察庁による取調べの一部録画・録音
従来、検察庁は、取調べの録画・録音は取調べの機能を阻害するなどとして、これを極めて否定的。その検察庁も、裁判員裁判で充実した迅速な裁判を実現するためには、そのような試行が必要不可欠であると判断し、2006年5月、「裁判員裁判対象事件に関し、立証責任を有する検察官の判断と責任において、任意性の効果的・効率的な立証のため必要性が認められる事件について、取調べの機能を損なわない範囲内で、検察官による被疑者の取調べのうち相当と認められる部分の録音・録画を行うことについて、試行することとした」と発表(現在検察庁は、全国の地方検察庁で、原則として自白調書を証拠請求する裁判員裁判対象事件の全件で、取調べの一部録画・録音)。
②警察庁による取調べの一部録画・録音の試行
検察庁の試行の影響も受けて、警察庁は2008年9月から警視庁、大阪府警、神奈川県警、埼玉県警、千葉県警など、大規模警察本部の警察署において、取調べの一部を録画・録音する試行。この試行も裁判員裁判対象事件の中から警察官の裁量によって、警察官による取調べの一部を録画・録音するというもの。
③取調べの可視化の意義と一部録画・録音の問題点
取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の本来の意義は、捜査過程を透明化し、違法・不当な取調べを著しく減少させて取調べの適正化をもたらし、取調べの状況を直接に客観化し、自白の任意性立証を容易にする。
現在検察庁や警察庁が実施している、取調べの一部のみ録画・録音するだけでは、かえって、取調べの捜査側に都合の良い部分だけが録画・録音されかねない。
(8)現在の状況
①検察庁が部分的に全面録画の施行
②「検察のあり方会議」提言
③「新時代の刑事司法制度特別会議」発足へ(現在進行中) |