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教育基本条例を考える
第1 はじめに
 
1. 大阪府において、すでに「君が代条例」を制定させた橋下徹氏は、さらに、教育基本条例・職員基本条例を制定しようとしている。しかしこの2条例は問題がありすぎる。
2. 橋下氏は、「独裁」を広言しているが、前記2条例は端的にいえば、「教師」「公務員」を知事の意のままに動かす「独裁」遂行のツールといえる。
3. 本稿では、主に教育基本条例の問題点を指摘するものであるが、合わせて、君が代条例・職員基本条例にも簡単に触れる。
第2 「君が代起立条例」(すでに成立)について
 
1. 内容(4条からなる)
府の施設における国旗掲揚義務(3条)
教職員に、公立学校行事における国家斉唱時の起立斉唱義務(4)
2. 問題点
 

1)思想・良心の自由(憲法第19条)に反する
 (1)憲法第19条 思想・良心の自由とは
    〔古典的理解では〕もっぱら「内心」の自由
    思想弾圧・思想による不利益を禁ずるもの(外部的行為は別途「表現の自由」などで保護)
   〔近時〕憲法第19条は、外部的行為の領域においても意義をもつ
 (2)日の丸・君が代の位置付け
    その意義から、起立斉唱を命ぜられることは思想・良心の自由に抵触する。
    少なくともそのように感ずる一定の人々が存する。
 (3)「君が代」不起立訴訟最高裁判決をどう見るか
    ①内容
     ・反対意見2人(内1人は斉唱のみ違憲)
     ・補足意見7人
     ・法廷意見
      「公立学校の卒業式等における国家斉唱時に起立斉唱を命じる職務命令は、
      憲法第19条に保障された原告らの思想・良心の自由に対する『間接的制約』には当たるが
      『必要性・合理性』が認められるから憲法違反とならない」
    ②法廷意見の問題点
     近時の憲法解釈からすれば不当
       「間接的制約」の意味不明。そもそも「直接的強制」ではないのか。
       しからずとも、今日、「間接強制」からの自由が重要。
    ③金築補足意見の問題点
     「どのような外部的行動が否定的意見をもち、その人に対し精神的苦痛を与えるかは
     人によって違う。個人の主観的判断に基づいて社会的に必要とされる多くの行為が、
     思想及び良心の自由を侵害するものとして制限を受けることになれば、
     そうした事態が法の客観性を阻害する。」
     ←人権は「少数者の人権」を守るもの
    ④この最高裁判決を前提としても、本条例及び教育基本条例は問題である
     ア.教育委員会の「職務命令」という枠を超えている
     イ.最高裁「必要性」論に照らして、本当に卒業式に必要か
     ウ.裁量権逸脱論は否定されていないと考える(ならば免職は行きすぎ)
2)手続的正義に反する
 (1)選挙のマニュフェストにあげていなかった
    ワンフレーズ選挙(今回はどうか)
 (2)拙速・多数の横暴

    以上は、いずれも橋下氏の手法

第3 教育基本法条例(案)について
 
1. 経過
 

1)5月定例会の主要案件
 (1)財政運営基本条例(案)
 (2)国旗国歌に関する条例(案)
 (3)議員定数削減条例(案)
 (4)大都市制度協議会設置要綱(案)
 *その後、9月定例会へ向けて条例案がなかなか公表されない。
  また、修正されるなど変遷した。

2)9月定例会の主要案件
 (1)旧WTC(咲洲庁舎)の改修工事(予算案)
 (2)成人病センターの大手前移転対策(予算案)
 (3)朝鮮学校への補助金(予算案)
 (4)教員基本条例案
 (5)教育基本条例案
 (6)教員定数条例の改正案

2. 基本的問題点
  (1)前文に、「政治が適切に教育行政における役割を果たし、民の力が確実に教育行政に及ばなければならない」と記載されている
  必ずしも「政治=民」ではない
  首長は、直接選挙により選ばれてはいるが、必ずしも多数派の民意とは限らない
  特定の争点に着目して当選した首長、議員は教育分野においても多数派の民意を反映しているわけではない
  そもそも教育は、多数派あるいは時の権力に都合の良いものであってはならない
(2)地方教育行政組織法の趣旨・教育委員会を置いていることの意味
 ①旧教育委員会法(1948~56)にみる戦後教育行政法の三原則
  住民自治、地方分権化、一般行政からの独立
  ※中央集権制度や官僚制度の下になめた被害経験の反省からの教育の自主性
 ②地教行政(1956)の制度に伴う三原則の後退
  教育行政と一般行政の調和、政治的中立と教育行政の安定、中央・地方の一体化
  教育委員公選制から首長による任命制へ、教委の条例案・予算原案送付権の廃止※しかい、一般行政からの独立原則は否定されたのではない。
(3)地教行法上の教育委員会と首長の役割分担  (cf.地方自治法180条の8)
  独立委員会として、教育に関する事務の管理執行は教育委員会が行う(地教行法23条)
  首長 財産の取得・処分、契約の締結、予算執行(地教行法24条)
     首長が条例にもとづき管理執行できるとされている「職務権限の特例」(同24条の2)は、スポーツ、文化行政に限定列挙 →今回の事例に該当しない
3. 個々の問題点
 

(1)「互いに競い合い自己の判断と責任で道を切り開く」(2条(3))
    自己責任と競争主義の考えが如実に現れている
    極端な競争主義は教育に相容れない
    世間は「競争社会」の理屈の誤り

(2)「愛国心と郷土愛」(2条(5))
    国家主義的色彩。これらの言葉の果たしてきた役割を考えるべし。
    「愛国心」は教育基本法にもない

(3)「世界標準で競争力の高い人材を育てる」(2条(6))
    企業に忠実な労働者を育てることがかいま見られる
    しかし、教育で育てるべきはそのようなものではない
(4)知事に教育委員を任免する権限(6条1)と罷免事由の制定(12条)
  ①教育委員の中立性はどうなるか
   独立行政委員会制度である「教育委員会」変容の危険
  ②そもそも条例で罷免事由を定めうるか
   本条例が定める罷免事由の内容上の妥当性
   地教行法7条の罷免事由と齟齬をきたさないかどうか
   「地方公共団体の長は、心身の故障のため職務の遂行に堪えないと認める場合又は
職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認められる場合…」(7条1)
   →同条例が定める罷免事由は、地教行法7条1がいう「職務上の義務違反」に該当するか

(5)知事の目標設定(6条2)
  ①条例で教育理念を示すことの妥当性
   理念の法定をめぐる妥当性 一般的抽象的レベルか具体的な目標レベルか
  ②教育目標設定権を知事に委ねることの妥当性
   a 教育の政治的中立性の確保
   b 教育行政の安定性

(6)学力テストの公表(7条2)
   教育上、政策上妥当なのか

(7)校長・副校長の任期制による採用(14条)
    かつての解説では「校長とは学校をマネジメントする経営者」とあった。
    学校は営利企業なのか

(8)教員任用における校長の意向(18条)
    校長の意に沿う、或いは顔色をうかがう教員の危険
    教育の政治からの独立の危険
(9)教員の人事評価(19条)
   かつて「インセンティブを導入したマネジメント」と解説。成績主義、競争主義。
   教職員の資質向上・意欲向上につながらず、学校組織の円滑な運営を阻害する

(10)懲戒処分、分限処分の基準(24条他)
    教員を思うように動かす
    真の教育に携わることが出来るのか

4. まとめ
  (1)教育の自由(憲法)
   戦前の国家主義的教育の反省からの政治的中立
(2)教育は不当な支配に屈せず(教育基本法)
   時の権力に左右されることは教育といえない
(3)教育委員会の役割(地方教育行政組織法)
   教職員の懲戒・分限を条例基準によることは教育委員会の権限を侵犯する
第4 職員基本条例(案)について
 
1. 基本的問題点
 

(1)前文、「民」のための貢献を求め、能力と業績人事を徹底するという。
   政治の為に動く公務員を作るという根本的誤り
(2)公務員法に対する無理解
   ①二元代表制への無理解
    議会が首長を差し置いて使用者の立場に躍り出ることは予定されていない
   ②公務員の身分保障に対する無理解
    政治により左右されず、また労働基本権制約の代償措置
(3)民間の労務管理・労働実態の美化

2. 個々の問題点
 

(1)人事の一般原則(3条)
    能力業績主義と知事の意向の反映
    成果主義一般の批判と政治におもねる危険

 (2)人事評価(8条)、相対評価(11条)、任用・給与などへの反映(12条)
    知事の言いなりの職員体制への危惧

 (3)給与原則(13条)
    民間同一職種水準は、公民あわせて労働条件劣悪化へと向かう危惧

 (4)職務命令違反(31条・32条)
    雇用保障・労働基本権の侵害

第5 最後に
 
1. マスコミを最大に利用して民意を歪めた橋下氏が、更に「教員」「公務員」を動かして 本当に「独裁」する危険性
2. マスコミ風潮、同調圧力に流されないという「教育」こそ真に必要
3. 2条例は、一つ一つ批判してもしきれないほど多くの問題点がある
 「大きな視点」で、いかにわかりやすく批判するか
4. しかし、それをどのように伝えていくか
 「ヒトラー前」に来ているのか
保守の側からも批判
あきらめずに、それぞれの「情報伝達手段」で伝えていくしかない
   
  (参考)
 
 橋下前知事の素質
   ①行政マンとしての言動の軽率さ
   ②政治家としての権力志向性がきわめて旺盛
   ③複雑な問題でも一点突破的な強権的措置で解決できると思いこんでいる
   ④言動の奇抜さ・政治家としての威圧性・陰湿性
   ⑤政策の貧困性→敵への明快な攻撃によってカバー
                 (甲南大・高寄名誉教授より)
   ポピュリストの要素
   ①危機感の演出
   ②敵対勢力の創出
   ③リーダーシップの発揮
   ④改革への期待感
   ⑤政治ムード、ワンフレーズ・スローガンなど
                 (大阪府議会・民主ネット議員団資料より)
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