大川法律事務所
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顔認証システムの利用とプライバシー権
第1 顔認証技術の発展
 
1,顔認証技術とは
(1) 顔認証とは、人が、誰の顔かを認識すること
顔認証技術とは、その顔認証を、機械が行うことをいう。
機械が「誰の顔かを認識」するということは,
Aの画像とBの画像の異同を判断するということ=「同一性認識」
(2) 五大変動要因(姿勢・照明・表情・付着物・経年)
この克服が課題
今日、それが急速に進化
今日、併せて、「表情分析」(喜び、驚き、怒りなど)も研究されている。
2,顔認証技術の商品化
  インターネット上の広告などを見れば、すでに商品化されている。
(いわゆる「防犯カメラ」の延長)
NEC、リコー、東芝、リカオン、大塚商会、富士フイルム、オムロンなど
3,今日どこまで技術が進んでいるか
(1) 商品化されていること
パチンコ店などですでに利用されている。
(2) オムロン見学と企業秘密
入口の「年齢・性別検証デモ」と「スマイルチェック」
(3) これまでの実験、各国の成果
第2 今日の利用~長所として販売用に喧伝されていること
 
1,顔認証技術の効用

 1)民間ベース
(1) 写す側
  ①犯罪(万引き)防止
 注意人物警報が鳴る~認識率が低くとも(間違っていても)役立つ
②セキュリティ
 入退室管理
③マーケティングサービス
 リピート客管理など
(2)

写される側

  ①顔パスサービス
 支払い
 入場(USJなど)
 これは写す側も効用 
②居眠り防止~ドライバーの自己の顔をあらかじめ認識させておく
③おすすめ商品提供
 アマゾンの究極形
(3) その他
  ①ペット識別
②被災地回収写真の識別
2)公権力側
  治安維持
犯罪捜査の利用
 2.本当に効用だけなのか
1) 写されること自体の問題~超監視社会
2) 管理・監視の濫用の危険
第3 超監視社会
 
1. 24時間監視
 

「悪いことをしていない」から関係ないのか

2. その濫用の危険
  「悪いひと」チェック以外の濫用
 ①私人の濫用
 ②公権力の濫用
3. 「安心・安全」の為に失われるもの
 

 ①その息苦しさによって本当に「安心・安全」は守れるか
 ②「社会に復讐」型の犯罪は防げない

第4 写される側の権利
 
1. 肖像権
 

みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由

2. プライバシー権
 (1)定義
  ①一人で居させてもらう権利
②私的事柄をみだりに公表されない自由
③自己情報コントロール権(通説)
④自己イメージコントロール権(棟居説)
 (2)根拠
 

①憲法13条(個人の尊厳、幸福追求権)
②「個人情報」の自己決定権。自由と民主主義の基盤

3. 公権力から監視されない権利(韓国で「反監視権」)
 

判例はプライバシー権の一種とした。
 ※いずれにせよ写される側の「権利」性を否定するものはない。
 ※ともすれば、いずれにせよ「権利侵害」を許容する例外の問題となる。
  通常、「『人権』を制限するのは『人権』しかない」

   
   
第5 写真撮影、監視カメラに見る判例
 
1. 行政による撮影
 (1)現行犯状況における写真撮影
  京都府学連判決(1969年12月24日最高裁判決)

「個人の私生活上の事由の1つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するものというべきである。」
そのうえで、写真撮影の具体的な許容限界として、
「①現行犯ないし準現行犯状況の存在、
 ②証拠保全の必要性及び緊急性の存在、
 ③撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行われること、という要件の充足が必要との判断を示した。

※この種の事件の一番、元となる最高裁判決
 (2)事後的撮影
  最高裁決定2008年4月15日

 昭和44年判決は事例判断に過ぎないとの判断を示した上で、強盗殺人・窃盗等の事件に関して、殺害された被害者のカードを用いて現金自動預払機から多額の現金を引き出した際に防犯ビデオに映っていた人物と、この事件に関与した疑いの生じた被告人との同一人物性捜査のためのビデオ撮影を「犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため,これに必要な限度において,公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し,あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等を撮影したものであり,いずれも,通常,人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである。以上からすれば,これらのビデオ撮影は,捜査目的を達成するため,必要な範囲において,かつ,相当な方法によって行われたものといえ,捜査活動として適法なものというべき」と判示した。

 ※44年判決とは、現行犯的状況か事後的撮影かとの違いがある。
 ※「判例変更」とは言わず、44年判決を「事例判断」としている。

 ※要件としての、場所、目的、必要性、相当性
  (受任せざるを得ない場所、というのはどうか)
 (3)事前撮影
1) オービスⅢ(最判1986年2月14日)
   速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいって緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法13条に違反せず、また、右写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになつても、憲法13条、21条に違反しないことは、〔昭和44年判決〕の趣旨に徴して明らかである
2) 山谷監視カメラ事件(東京高判1988年4月1日)
   ビデオテープの証拠能力に関する判断において、撮影の許容性に関する判断を示したが、京都府学連三要件は具体的事案に即して判示されたものであって、その要件を具備しない限り、一切写真撮影が許容されないという趣旨ではないとした。そのうえで、
「①当該現場において犯罪が発生する相当高度の蓋然性が認められる場合に、
 ②撮影・録画という証拠保全方法によるべき必要性・緊急性が認められ、
 ③その撮影・録画が、社会通念に照らして相当と認められる方法で行われる場合には、現に犯罪が行われる時点以前から犯罪の発生が予測される場所を継続的、自動的に撮影、録画することは許される」とした。
 3)西成監視カメラ事件(大阪地判1994年4月27日
   15台の監視カメラの撤去を求め、その内1台の撤去が認められた事案。
 カメラの設置・使用にあたっては、
「①目的が正当であること、
 ②客観的かつ具体的な必要性があること、
 ③設置状況が妥当であること、
 ④設置及び使用による効果があること、
 ⑤使用方法が相当であること」により、その許容性が判断されるとの見解を示した。(大阪高裁も同旨。最高裁は双方上告棄却。)
2. 私人による撮影
  ①自己のエリアを写すときは自己の「財産権」「所有権」「営業権」の防御のために公権力の撮影よりも「可」とされやすい。
②しかし、公共のエリアへの撮影に及ぶときは、「公権力による撮影」と同様の制約がつく。
第6 大阪駅顔認証実験の問題点
 
1. 特色
  大阪駅前顔認証実験は
①公共空間を映す
②映し手は民間・私人
③顔認証は、写真撮影監視カメラよりも高度に情報取得する。
 ~匿名のAさんの行動でなく、フェイスブックその他インターネット上で顔をさらしている人の場合、実名の特定者の行動の管理となる。
2. 写すこと自体が人権侵害
  公権力の写真撮影・監視カメラ撮影には裁判例あり(前述)
いずれも映される側の権利侵害を認めそれでもなお撮影が許容される一定の要件を設 定している。
顔認証実験は、より高度な情報取得
民間・私人の場合は、一定の自己のエリアを守るための監視カメラは営業の自由として許される。
しかしそれが、他のエリアに及ぶときは別。
3. 判例に照らしても
 (1)判例の評価は色々あろうが、判例に照らしても、
  ①写すことは人権侵害
②例外として許される場合も、要件を設定している。
 例えば、目的、必要性、相当性など
 今回は「実験」である。
 しかも、「実験」結果が示されないゆえ、およそ正当な目的があると思えない。
 これまでも実験されてきたが、撮影期間・エリアで逃げることが出来る。
 今回はほとんど「逃げる」事が出来ない。

 なぜ会社が自己の社員で実験しないのか。例えば、大阪ドームを借り切り、自由に色々な格好で動いてもらえばいい。それでは駄目な必要性、相当性がない。
4. 小林正啓弁護士の指摘について
  「『第三者への譲渡』を禁止すればよい」~いわゆる「出口規制」的な発想
5. 「延期」でいいのか
  ~「中止」しかない。
  以上  
  (2014.3.16 弁護士 大川一夫)
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