大川法律事務所
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人間とAIを分かつもの(インタビュー・フルバージョン版)
 
杉村弁護士 杉村達也さんは弁護士にしてコンピュータープログラマー。今やプロ棋士よりも強い将棋ソフトAIであるが2020年にはそのコンピューター世界選手権で優勝したソフト「水匠」の開発者でもある。「水匠」は藤井聡太七冠、渡辺明前名人が使用していることでも有名。「趣味は理系、進学は文系」という二刀流の秀才である。(聞き手大川一夫・202374日)  
― 2年前は大阪弁護士会館での学習会にご講演頂き有り難うございました。お陰様で大好評でした。
 こちらこそありがとうございました。

― 新聞、テレビ、各種インタビューとお忙しいんでしょう。
 忙しくないといえばそうでもないですが。
   
― 弁護士業とプログラミングの両立は大変なのではないですか。
 無論本業たる弁護士業中心ですが、プログラミングはAI同士を対局させてまたその強い者同士を対局させてとサイクルを繰り返しますのでデータが揃うまでは実は子供の成長を見守るように待っているのでその間の時間は十分とれます。

― 小学4、5年生ころからプログラミングを始めたとお聞きしましたがそういう関心は幼少のころよりあったのでしょうか。
 父がシステムエンジニアでした。私は幼稚園のころからスーパーファミコンで遊び、小学校低学年の頃からノートパソコンでゲームなど遊んでいましたが私が4~5年生の頃にビジュアルベーシックのテキストを父に買ってもらってプログラミングを始めました。

― 驚きますね。谷川浩司十七世名人が藤井七冠との共通性として子供ころに「メイクテン」(4つの数字を加減乗除などして10にするパズル)にはまったのが同じだ、と著書に書かれていました。そのエピソードを私がたまたま羽生善治九段にお話出来る機会がありましたのでその質問をぶつけますと、当然ですよ、といわんばかりの表情で「国鉄のチケットには4つの数字が書かれており私もやりましたよ」と言われたのが印象的でした。
 杉村さんも何か子供のころにはまった数字ゲームやパズルなどありますか。

 予め質問項目を頂いて凄い質問と驚きました。と言いますのは実は私が最初に子供心に作ったのが「メイクテンを自動的に解くプログラム」でした。

― いや確かに偶然ですね。そういうパズルもお好きだったのですね。
 算数、数学は好きでしたし中学に入ってからは数研(漢研の数学版ですが)これの難問を解いたり、数学の未解明問題を考えるのも好きでした。

― そんな「趣味は理系」の杉村さんが弁護士を目指そうと思われた時期とその動機を教えてもらえますか。
 高校に入って倫理、政経に関心を持ちディベートの面白さを知って弁論部にも入りました。このころに司法試験を目指そうと思いました。市民の方の相談にすぐ答えるというある種の瞬発力を生かせる仕事とも思いました。

― 杉村さんのように理系タイプなら刑法は好きなのではないですか。実は私の大学時代の刑法教授が刑法を好きになるタイプの一つが論理好きというのがありました。刑法は構成要件、違法性、責任と論理的な面があるでしょう。
 確かに好きでした。刑事訴訟法も好きでした。証拠の部分とか。

― ああ、同じ証言が何を立証するかによって、伝聞にもなったり非伝聞にもなったりするところですね。あれパズルですね。
 そうです。好きでした。

― さてAIの話ですが、いまや「水匠」の通りディープランニング系が優秀と言うわけですね。
 ディープラーニングの技術は、人間の神経細胞(ニューロン)を模したニューラルネットワークがベースです。お陰様で「水匠」は数多く使って頂いておりますし、私自身も10数名の棋士の先生に「水匠」導入のアドバイスをしました。

― ところで今や将棋の中継ではAIの評価値・予想手が示され、人たる解説者の役割に「この手が人間的に指せるかどうか」の解説があります。ところが杉村さんは「人間的にどれくらい指せないかを数値化したい」と次の構想を考えておられます。
 実は私が杉村さんにインタビューさせてもらいたいと思ったのはこの構想をテレビで見たからです。AIとは違う「人間的なもの」というのをどこに見い出されたのでしょうか。

 いやこれはある局面で実際に次の手がどう指されたかというデータを集めることで「次に何が指されすいか」を確率的に数値化するという手法です。

― 成程、人間のデータを集めるわけですね。
 いやそれがAI同士の対局なのです。AIも最善手と選択確率は違うのです。例えば、有名な「谷川の77桂」や「羽生の52銀」も,AIは最善手と示しますが選択確率は高くない。

― ええ!それは何故ですか。

 そこはわかりません。不思議なことにそうなんです。

― 例の「4億手・6億手」問題で、AIも最初の読みは人間の選択のしやすさと一致しているということでしょうか。
 AIも深く読みを入れたときは最善ですが最初はそうでない。しかしそれが何故人間の選択と一致するのかは分かりません。  

― いや不思議ですね。ところで生成AIがどんなに巧妙に人間らしい話をしても、人間と違ってAIには「記号接地」がないといわれます杉村さんのお考えは。

 真似して行く手法はAIも人間と一緒ですから、私はその「記号接地」もどうかな、と思っています。確かに「記号接地」はあるでしょう。しかしそのことによってそこまで違うのか、或いは人間もそこまで理解しているのか、と思います。

― 或いは羽生九段は「人間は時系列に関係したものを美しいと考える」「美しくないものは本能的に指せない」と言われていたことがありました。だから「点」で考えるAIの指す手が美しくないために指せない、ということでしょうが、この「美しさ」論はどう思われますか。
 AIは確かに「美しくない」と言われます。しかし美しさのとらえ方も変わっていきます。人間も「人間離れ」します。AIの指す手も美しいと思うようになるのでは無いでしょうか。藤井七冠の指し手を我々は「指せない」と感心しますが本人は美しいと思っているかもしれません。

― AIの発展で弁護士或いは法曹はなくなる仕事でしょうか。
 AIは凄く便利なツールです。例えばChatGPTが進歩して法曹用のAIが出来てもそれを活用できるのは結局法曹です。それは、「水匠」を活用できるのは強い棋士であるのと同じです。その意味で仕事のスタイルは変わっても弁護士或いは法曹がなくなるとは私は思いません。AIが人間にとって代わることもないでしょう。それには「学習データ」があまりにも少なすぎるからです。

― ChatGPTがとってかわるようなことをいう人もいますね。
 実はChatGPTには「質問する能力」が入ります。人にとってかわることはないでしょう。ただ、SF的ではありますが人間の「記憶データ」が取り出せることが出来るようになればAIが全てとってかわるということもあるかもしれませんが。

― ええ!記憶データが取り出せる?そんなこと出来るんですか。

 だからかなりSF的なんですが、出来ないことはないでしょう。

― そもそもAIと人間の未来について杉村さんはどういうお考えでしょうか。
 うまく共存出来ると思っています。それは機械打ちこわし運動が起こっても人間の仕事がなくなったのではないのと同じです。無論、仕事の内容は変容しますが。

― 本日はありがとうございました。
 
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