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モリクロ事件に勝利する~「集団」で同業他社へ移ったケース
  事案の概要
   原告らが勤務していた被告株式会社モリクロ(以下会社という)は各種メッキ加工及び金属表面処理などを主たる業務とする会社である。会社は、2008年8月に、退職金を上乗せするという希望退職制を募った。その希望退職に応じ(そして後に同業他社へ就職し)た者が原告ら9名現れたところ、会社は一転して「集団脱退を画策した」等としてその9名を懲戒解雇し、上乗せ退職金どころか退職金は一切払わず、それどころか①集団脱退画策②競業忌避義務違反③秘密保持義務違反、を理由に逆に原告らに対して損害賠償請求をしてきた。
  事案の背景
   本件には、会社の方針に対して色々と具申してきた労働者(原告の一人)を毛嫌いした会社が種々のパワハラを行い退職させようとしてきた背景がある。しかしそれでも辞めないために会社が新たに設けたのが本件希望退職制である。ところがそれによって前述の労働者のみならず、それまで会社に嫌気がさしていた者達もこれを機に希望退職制に応募した。その数9名と予想外に多かったことから会社は、これは会社の打撃を目的とした「集団脱退」であると称して退職金支給をやめることとし、逆に労働者に損害賠償請求をすることにしたのである。
  労働組合の迷走
   ところで当該原告ら(9名の内6名)は希望退職制が公示された段階で外部の労働組合に相談。加入し、きちんと上乗せ退職金がもらえ円満に退職できることを願って、交渉を労働組合に委ねた。ところがその労働組合委員長は原告らに何ら知らせず、上乗せ退職金額以上の高額の退職金を勝手に要求し、会社の拒否にあうや一転して原告らに秘していわゆる「ボス交渉」を行った。そしてその後、驚くべき事に、原告らに対して「この事件は負ける。会社は『同業他社に行かない』と約束すれば納めると言っている。従ってその誓約書を書くべきである」と強く迫ったのである。原告らはこの職種に長年勤務しており、同業職種に就かないことはとうてい約束し得るものではない。労組委員長の態度はおよそ労働者の意を全く無視した強要である。それゆえ原告らはこの労働組合と決別し、その後この6名を私大川が受任した。提訴に当たっては元々のパワハラ問題と退職金請求の他、未払い残業が多くあったことからそれも付け加えた。
  裁判の経過
   原告らは、退職金請求の他、未払い残業代請求、付加金請求、そして一連のパワハラなどに対する損害賠償請求を行い、一方会社側は反訴として、原告らに前記①②③を理由に損害賠償請求を行った。
 本件訴訟の過程で会社側が行った「タイムカード書き直し」が発覚するなど会社の対応は極めて悪質であった。2011年3月4日大阪地裁判決はほぼ原告の言い分を認めた。 実はこの本案裁判に先立って、会社側が原告らに申立した仮処分事件があったのだが、その仮処分決定では会社側の言い分を認めて従業員の競業忌避義務を認めていた。この一審判決はこの仮処分決定の判断を覆したわけである。
 一審判決が会社は控訴。原告らも、付加金とパワハラの損害賠償を認めなかった敗訴部分に対して控訴。同年11月15日大阪高裁はほぼ一審を維持の上、加えてごくわずかだが一部原告への慰謝料の増額を認めた。
 会社は上告受理申立をしたが2013年8月28日に最高裁は不受理の決定を出して原告側の勝訴が確定した。最高裁の不受理決定はいわゆる「三行半」の簡単なものである。
  本件のポイント
   1,2審判決は原告らの言い分をほぼ認め、一方、前記①②③の点につき会社の言い分は認めなかった。①は事実認定の問題だが、②③につき就業規則上の義務は認めた上で②につき権利濫用、③につき秘密保持の必要性がないとの理由のもとに結局会社の主張を排斥した意義は大きい。つまり、単に形式的に、就業規則上の義務があるというだけでなく実質的に判断して、結果として、労働者の「義務違反」を認めなかったのである。
 ちなみに、原告らが事前に相談していた労組委員長の「負ける」との予測は全く間違いであった上、労組委員長の一連の行動は訴訟活動においても原告らにマイナスに働いた(労働組合の要求は希望退職制の申込みといえないとされたこと等)。本件は、労働組合の委員長がその本来の役割を忘れた事例ともいえよう。(詳細は労働判例1030号を参照されたい)
   
  ※本稿は、私の所属する大阪労働者弁護団の通信に投稿した原稿に、付加・修正をしたものである。
 
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